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リスクオン相場とリスクオフ相場の基本的な違い
まずは、リスクオン相場とリスクオフ相場の基本的な違いについて解説します。
リスクオン相場(Risk On)とは
リスクオン相場とは、投資家がリスクを取ることに積極的になり、高いリターンを求めて投資行動を取る市場環境のことです。具体的には以下のような特徴があります。
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株式市場が上昇傾向
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高金利通貨(豪ドル、NZドル、カナダドルなど)が買われる
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低金利通貨(円、スイスフランなど)が売られる
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商品市場(原油、金属など)も上昇しやすい
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VIX指数(恐怖指数)が低下
リスクオン相場では、世界経済の成長見通しが明るく、市場に楽観的な雰囲気が広がっています。投資家は「攻め」の姿勢で、より高いリターンを求めて積極的に投資を行います。
リスクオフ相場(Risk Off)とは
一方、リスクオフ相場は、投資家がリスクを回避し、安全資産に資金を移す市場環境です。以下のような特徴があります。
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株式市場が下落傾向
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安全資産とされる通貨(円、スイスフラン、米ドルなど)が買われる
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高金利通貨が売られる
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金などの安全資産が上昇しやすい
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VIX指数が上昇
リスクオフ相場では、地政学的リスクや景気後退懸念などから、市場に悲観的な見方が広がります。投資家は「守り」の姿勢を取り、元本の保全を重視した投資行動を取るようになります。
私たちが日々の相場を分析していると、この「リスクオン・リスクオフ」の波は、数日から数週間、時には数ヶ月単位で繰り返されることがわかります。この波を理解し、適切な通貨ペアを選ぶことができれば、FX取引で大きなアドバンテージを得ることができるのです。
リスクオン・リスクオフで選ぶべき通貨ペア
では、それぞれの相場環境で具体的にどのような通貨ペアを選ぶべきなのでしょうか?
リスクオン相場で狙うべき通貨ペア
リスクオン相場では、「高金利通貨を買い、低金利通貨を売る」という基本戦略が有効です。具体的には以下の通貨ペアが注目されます。
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AUD/JPY(豪ドル/円):リスクオン相場の代表的な通貨ペアで、上昇トレンドになりやすい
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NZD/JPY(NZドル/円):豪ドル/円と同様に、リスク選好度の高い相場で上昇しやすい
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CAD/JPY(カナダドル/円):原油価格と連動性が高く、リスクオン相場では上昇傾向
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EUR/JPY(ユーロ/円):欧州経済への期待が高まると上昇しやすい
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GBP/JPY(ポンド/円):ボラティリティが高く、リスクオン相場では大きく上昇する可能性
これらの通貨ペアは、リスクオン相場では「キャリートレード」(低金利通貨を売って高金利通貨を買う取引)の対象となりやすく、相場の勢いに乗りやすいという特徴があります。
リスクオフ相場で狙うべき通貨ペア
一方、リスクオフ相場では「安全資産を買い、リスク資産を売る」という戦略が有効です。具体的には
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USD/JPY(ドル/円):円高方向(下落)に動きやすい
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CHF/JPY(スイスフラン/円):両方とも安全資産通貨のため、変動が小さい傾向
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EUR/USD(ユーロ/ドル):リスクオフが強まると下落傾向
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USD/CHF(ドル/スイスフラン):安全資産同士の通貨ペアで、比較的安定した値動き
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USD/CAD(ドル/カナダドル):原油価格下落時に上昇しやすい
これらの通貨ペアは、市場の不安が高まると特定の方向に動きやすく、リスクオフ相場でのトレンドフォロー戦略に適しています。
リスクオン・リスクオフを見極めるための指標
では、現在の市場がリスクオン相場なのかリスクオフ相場なのかを、どのように判断すれば良いのでしょうか?以下の指標を確認することで、市場の状況を見極めることができます。
株式市場の動向
世界の主要株価指数(日経平均、S&P500、ダウ平均など)の動きは、リスクオン・リスクオフの最も分かりやすい指標です。株価が上昇基調であればリスクオン、下落基調であればリスクオフの可能性が高いと言えます。
TradingViewでは、これらの指標を一画面で比較表示できるため、世界の株式市場の動向を簡単に把握することができます。例えば、「世界市場ヒートマップ」機能を使えば、世界中の株式市場の状況を一目で確認できるのです。
VIX指数(恐怖指数)
VIX指数は、市場の不安感や恐怖心を数値化した指標で、「恐怖指数」とも呼ばれています。
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VIX < 20:市場は落ち着いており、リスクオン環境の可能性大
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VIX > 30:市場は不安定で、リスクオフ環境の可能性大
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VIX > 40:パニック状態を示し、強いリスクオフ環境
TradingViewでは「VIX」を検索するだけで、リアルタイムのVIX指数チャートを表示でき、テクニカル分析も可能です。VIXの急上昇は、リスクオフへの転換のシグナルとなることが多いため、常にチェックしておくことをおすすめします。
米国債利回りとドル指数
米国債の利回りとドル指数(DXY)も重要な指標です。一般的に
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米国債利回りの上昇 + ドル安 = リスクオン環境の可能性
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米国債利回りの低下 + ドル高 = リスクオフ環境の可能性
TradingViewでは、「US10Y」(米10年債利回り)と「DXY」(ドル指数)を同時に表示して、相関関係を分析することができます。これらの指標の動きを理解することで、市場の方向性をより正確に予測することが可能になります。
商品市場(コモディティ)の動向
原油や金などの商品市場の動きも、リスクオン・リスクオフを判断する上で重要です。
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原油価格の上昇 = 経済活動の活発化を示し、リスクオン環境の可能性
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金価格の上昇 = 安全資産への逃避を示し、リスクオフ環境の可能性
TradingViewでは、「USOIL」(WTI原油先物)や「XAUUSD」(金/ドル)などのシンボルを使って、これらの商品価格の動向を簡単に確認できます。さらに、通貨ペアとの相関関係を調べるための「相関係数」ツールも用意されているため、より深い分析が可能です。
TradingViewを活用したリスクオン・リスクオフ分析術
ここからは、TradingViewの具体的な機能を使って、リスクオン・リスクオフの状況を効率的に分析する方法をご紹介します。
マルチチャート表示で相場全体を把握する
TradingViewの「マルチチャート」機能を使えば、複数の市場を同時に監視することができます。例えば、以下のような組み合わせで4分割表示を設定すると効果的です。
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S&P500指数(SPX):世界最大の株式市場の動向
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VIX指数:市場の恐怖心を示す指標
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USD/JPY:安全資産としての円の需要を示す
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AUD/JPY:リスク選好度を示す代表的な通貨ペア
これらを同時に表示することで、市場全体の雰囲気を一目で把握することができます。S&P500が上昇し、VIXが低下、AUD/JPYが上昇していれば、リスクオン環境と判断できるでしょう。
相関スクリーナーで通貨ペア間の関係を分析
TradingViewの「相関スクリーナー」機能を使えば、異なる通貨ペア間の相関関係を数値化して確認できます。例えば、AUD/JPYとS&P500の相関係数が高い場合、株式市場の動向に連動して豪ドル/円も動く可能性が高いと判断できます。
相関係数は-1から+1の範囲で表され、+1に近いほど正の相関(同じ方向に動く傾向)、-1に近いほど負の相関(逆方向に動く傾向)があることを示します。リスクオン・リスクオフの判断には、これらの相関関係の理解が不可欠です。
カスタム指標でリスク選好度を可視化する
TradingViewの強力な機能の一つが、Pine Script®を使ったカスタム指標の作成です。例えば、「リスク選好度指標」を作成することで、市場のリスクオン・リスクオフの状態を数値化して表示することができます。
具体的には、以下のような要素を組み合わせた指標を作成できます。
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AUD/JPYとUSD/JPYの比率
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S&P500とVIXの逆相関関係
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金価格と原油価格の比率
このようなカスタム指標を使えば、複雑な市場環境を一つの線グラフで表現でき、リスクオン・リスクオフの転換点を視覚的に捉えることができます。TradingViewのコミュニティでは、すでに多くのユーザーが作成したリスク選好度関連の指標が共有されているため、それらを利用することも可能です。
アラート機能で相場転換を見逃さない
リスクオン・リスクオフの転換点を捉えるために、TradingViewの「アラート」機能も非常に役立ちます。例えば、以下のようなアラートを設定しておくと良いでしょう。
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VIX指数が20を上回った時(リスクオフへの転換可能性)
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S&P500が200日移動平均線を下回った時(トレンド転換の可能性)
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AUD/JPYが直近の支持線を割り込んだ時(リスク回避の動きの可能性)
これらのアラートは、メールやモバイルアプリの通知として受け取ることができるため、常に市場を監視していなくても、重要な変化を見逃すことはありません。
リスクオン・リスクオフを活用した実践的なFX戦略
ここまでの知識を踏まえて、実際にリスクオン・リスクオフの概念を活用したFX取引戦略をご紹介します。
トレンドフォロー戦略
リスクオン・リスクオフの状況を把握した上で、そのトレンドに沿って取引を行う戦略です。
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リスクオン環境での取引例:AUD/JPYの上昇トレンドが確認できたら、押し目買いを狙う。移動平均線や支持線からのリバウンドポイントをエントリーポイントとし、トレンドに乗る。
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リスクオフ環境での取引例:USD/JPYの下落トレンドが確認できたら、戻り売りを狙う。抵抗線や移動平均線からの反発ポイントをエントリーポイントとする。
TradingViewでは、移動平均線やRSIなどのテクニカル指標を簡単に追加でき、これらを組み合わせることで、より精度の高いエントリーポイントを見つけることができます。
相関性を活用したペアトレード戦略
リスクオン・リスクオフの概念を理解すると、通貨ペア間の相関関係を利用した「ペアトレード」も可能になります。
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正の相関ペアの活用:AUD/JPYとNZD/JPYは通常、同じ方向に動く傾向があります。片方が急落し、もう片方がまだ下落していない場合、遅れて下落する可能性が高いペアを売るチャンスかもしれません。
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負の相関ペアの活用:USD/JPYとAUD/USDは、リスクオフ環境では逆の方向に動くことが多いです。リスクオフが強まる中でUSD/JPYが下落している場合、AUD/USDも売りを検討できます。
TradingViewの「相関マトリックス」機能を使えば、複数の通貨ペア間の相関関係を一覧で確認でき、このような戦略の構築に役立ちます。
ボラティリティを考慮したリスク管理
リスクオン・リスクオフの転換期には、市場のボラティリティ(価格変動の激しさ)が高まる傾向があります。このような時期には、以下のようなリスク管理が重要です。
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ポジションサイズの縮小(通常の半分程度に)
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損切りラインの広めの設定(ボラティリティに合わせて調整)
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利益確定の早期化(大きな利益を狙いすぎない)
TradingViewのボラティリティ指標(ATR:Average True Rangeなど)を活用すれば、現在の市場のボラティリティを数値化して確認でき、それに応じたリスク管理が可能になります。
初心者がよく陥るリスクオン・リスクオフの罠と対策
最後に、リスクオン・リスクオフの概念を活用する際に、初心者がよく陥る罠とその対策についてお伝えします。
罠①:過度な単純化
「株が上がればリスクオン、下がればリスクオフ」という単純な図式だけで判断すると、誤ったトレードにつながることがあります。市場は複雑で、複数の要因が絡み合っているため、一つの指標だけで判断するのは危険です。
対策:複数の指標を組み合わせて総合的に判断する。TradingViewのダッシュボード機能を使って、株式、債券、通貨、商品など異なる市場の指標を一画面に表示し、全体像を把握しましょう。
罠②:相関関係の変化を見逃す
通貨ペア間の相関関係は固定されたものではなく、市場環境によって変化します。過去の相関関係に固執すると、予期せぬ損失につながることがあります。
対策:TradingViewの相関スクリーナーを定期的にチェックし、相関係数の変化に注意を払いましょう。特に重要な経済指標の発表前後や中央銀行の政策変更時には、相関関係が大きく変わることがあります。
罠③:ニュースの過剰反応
地政学的リスクや経済指標の発表など、ニュースに過剰に反応してトレードすると、一時的な市場の動きに振り回される可能性があります。
対策:TradingViewの経済指標カレンダーを活用して、重要なイベントを事前に把握しておく。また、ニュース発表直後の激しい値動きが落ち着くまで、新規エントリーを控えるという選択肢も考慮しましょう。
まとめ | リスクオン・リスクオフを味方につけるFXトレード
リスクオン・リスクオフの概念を理解し、それに基づいた通貨ペア選びができるようになれば、FXトレードの成功確率は大きく高まります。本記事で解説した内容をまとめると。
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リスクオン相場では、AUD/JPYやNZD/JPYなどの高金利通貨/円ペアが上昇しやすい
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リスクオフ相場では、USD/JPYが下落(円高)し、安全資産が選好される
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株式市場、VIX指数、債券利回り、商品市場などの複数の指標を組み合わせて、市場環境を判断する
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TradingViewのマルチチャート、相関スクリーナー、カスタム指標、アラート機能を活用して、効率的に市場分析を行う
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市場環境に合わせたトレード戦略とリスク管理を実践する
FX市場は常に変化していますが、リスクオン・リスクオフという大きな枠組みで捉えることで、複雑な市場の動きを理解しやすくなります。そして、その分析と判断を効率的に行うためのツールとして、TradingViewは非常に強力な味方となるでしょう。
TradingViewでは、これまで紹介してきた分析ツールに加え、世界中のトレーダーとアイデアを共有できるコミュニティ機能も充実しています。他のトレーダーの分析やチャート設定を参考にすることで、自分の分析スキルを向上させることができます。